『クリード チャンプを継ぐ男』

 『クリード チャンプを継ぐ男』を見てきた。
 「ロッキー」シリーズの通算7作目となる作品で、アポロの息子をロッキーが鍛える、というお話。と言うと、名作を十番煎じくらいしたお茶だかお湯だか分からないようなグダグダの駄作を想像されそうだけれど、予想に反して?めちゃくちゃ良い作品だった!
 スターウォーズの影に隠れて今ひとつ話題になっていないのかもしれないけれど、ロッキーファンでもそうでなくても、これは見た方がいい。スターウォーズ第一作が1977年、ロッキー第一作が1976年と、丁度同じくらいの時期から続くシリーズものがの新作が両方上映されている訳だけれど、多分断然ロッキーの方が面白い。スターウォーズ見てないから知らんけど。
 以下、ネタバレも含むので注意。

 まず、わたしは別段ロッキーのファンという訳ではない。
 第一作は勿論歴史的名作だけれど、その後のシリーズものは、どれを見てどれを見てないかも覚えていない程度の認識しかない。多分、大体つまんないと思う。
 というわけで、別段ロッキーに思い入れがある訳でもなんでもないのだけれど、レビューをちらっと見たら結構評判が良いので、試しに見に行ってみた。
 良いところは沢山あるけれど、まず、これはちゃんとアドニス・ジョンソンの物語であって、単にロッキーの焼き直しとか後日談のようなものではない。主人公はあくまでアドニスで、ロッキーはシブい脇役に徹してくれている。
 アドニスはロッキーのライバルであったアポロの息子なのだけれど、愛人の子供で、母親も子供の頃になくして、幼少期は施設で過ごしている。というと、悲惨な環境で育ったハングリーな男、という、いかにもボクサーな設定のようだけれど、アドニスはアポロの本妻であるメアリー・アンに引き取られ、何不自由なく育っている。良い教育を受け、仕事でも高く評価されている。悲惨なようで結構ボンボン、という、微妙な育ち方をした男だ。
 でも、自分が生まれる前に死んだ父親の影をどこかで追っていて、会社をやめてプロボクサーになってしまう。
 それでいて、父親の名であるクリードを名乗ることを拒み、自分は自分のレジェンドを実現しないといけない、親の七光だとは思われたくない、と意地になっている。
 二世というのはどんな業界でもプレッシャーがありキツいポジションだと思うけれど、そういう葛藤の中で這い上がっていく成長の物語になっている。
 で、それを見守り育てるスタローンが大変シブい。え、スタローンってこんな俳優だったっけ?と思うような、落ち着きある芝居をしてくれている。
 これはわたしだけではないと思うけれど、スタローンという人物とロッキーというキャラは、もう一体というか、どこからがリアルでどこからがフィクションなのかよく分からないくらい混ざっていて、映画の中でロッキーが病気になった時は、「え、スタローン大丈夫?」とか、ちょっと本気で心配になってしまったくらいだ。
 そして、アクションシーンが大変良い!
 わたしは個人的に、格闘シーンのチャチな映画がどうにも辛い。いや、ガンアクションやカースタントなら良いのだけれど、殺陣をこなすようなアクションで、俳優さんがド素人だと、正直見ていて大変つらい。そういう意味では、スターウォーズも全く納得できない。スターウォーズで強いのはダース・モールだけだと思う。
 もちろん、俳優さんは俳優さんであって、別に格闘家ではないのだから、戦えなくても全然問題ないのだけれど、それならそれで、無理に強い設定の役をやらないでもらいたい。まぁ映画の本質とは全然別の話だけれど。
 その点、『クリード チャンプを継ぐ男』は芝居が大変良い。後で知ったけれど、主な敵役二人は本物のボクサーとのこと。いや、ボクシングシーンがちゃんとできている。
 特に、最初の試合の長回しは必見。ノーカットでボクシングシーンを撮っていて、かなり見ごたえがある。
 当然、映画なので演出はあるのだけれど、ボンクラなボクシング映画とは一味も二味も違う。ラストバトルの方はさすがにちょっと「ええー・・・」となるような派手な場面があって、こっちもシブい演出でやってくれたら文句なかったのだけれど、十分素晴らしい。
 いじめられっ子が部屋でボクシングを独習して下北でヤンキー狩りする某漫画のドラマ版のようなものとは、同じ惑星で作られた作品とは思えない。
 ストーリー的に、ジムの周りのチンピラ連中ともうちょっと絡みがあると面白かったと思う。アドニスは割とボンボンなのに対し、ロッキーに鍛えられるジムの周りは未来ゼロ希望ゼロな底辺エリアで、そんな世界のボンクラ連中が改造バイクみたいのに乗りながら「クリード頑張れ!」みたいなシーンがある。こういう展開は少年マンガっぽくて熱いので、ベタだけれどもうちょっとやってくれても良かった。

 主演のマイケル・B・ジョーダンは、『クロニクル』の主人公三人組の一人だった。これもめちゃくちゃ面白い映画なので見てもらいたい。