『魔法少女サイト』(佐藤健太郎)考察

 全くお恥ずかしい話なのですが、薄っぺらいサブカル人間のワタクシ、例によってまたマンガなどに夢中になっておりますよ。
 佐藤健太郎さんの『魔法少女サイト』という作品なのですが、始めは某アプリで無料公開されているのを読みました。数話読むうちにすっかりハマってしまい、単行本も買っています。以下多少のネタバレを含みますので、気になる方は読まないでくださいね。


魔法少女サイト 1 (Championタップ!)

 この『魔法少女サイト』、主人公は学校ではいじめられ家では兄から虐待されている朝霧彩という中学生が「魔法少女サイト」なるウェブサイトを見つけたことから、魔法のステッキを与えられて……というお話です。物語には多くの魔法少女が登場するのですが、皆何らかの不幸を背負っていて、超常的な力を発揮できるステッキを与えられる、ということになっています。
 で、タイトルとしては『魔法少女サイト』で、登場人物はほとんど総べて少女ばかりなのですが、構造としては少年漫画、能力バトルものですよね。ステッキは形状も様々で、「物質の転送」とか「時間を止める」とか「電撃」とか色々な機能があるのですが、スタンド能力のようなものです。
 能力バトルと言っても、複雑な能力同士が戦って推理小説的な解に至る、という構造ではなくて、比較的初期の段階から「この魔法少女サイトは何なのか」という根本の世界構造に問いが向かっています。最初の内は能力者同士がルールに従って戦い、やがて世界構造そのものが主題になる、というのが定番の流れですが、『魔法少女サイト』の場合、謎解き要素がかなり重要になっています。
 この辺は世界観の設定が非常に上手いなぁ、と思うのですが、魔法のステッキには使えば使う程寿命が減っていく、という縛りがあるのです。一方で「サイト管理人」と呼ばれる異形の者たちがいて、彼(彼女?)らは何せ管理人ですから、世界のからくりを知っている筈なのですが、数ある魔法少女の中から「魔法少女ハンター」を選定し、この子たちには魔法少女を殺害しステッキを回収することを依頼しています。
 また、魔法少女サイトには「テンペスト」なる審判の日的な概念があり、既にこの終末の日まで残り日数が数少なくなっています。この日に何が起こるのかは現時点では開示されていません。「より多くのステッキを使用した者のみをテンペストから回避させ、生かしてくれる」との記述があるのですが、ステッキを使えば使うほど寿命が減る以上、一見すると矛盾があります。そしてこの矛盾に気付いた魔法少女ハンターが殺害される、という場面もあり、テンペストそのものが嘘なのではないか、という仄めかしもあります。
 現時点で、主人公は多くの仲間を得て、魔法少女サイトの謎に立ち向かっており、複数いるサイト管理人のうち一人を逆襲し殺害するにまで至っていますが、魔法少女サイトおよびステッキの秘密は依然解明されていません。サイト管理人と繋がっているらしい警察官というキャラ、その警察官に監禁されている主人公の兄(彼がラスボスになるのかはわかりませんが、相当な外道キャラです)、などの要素もあります。
 見どころとしては、少女ばかりと言いながらまるっきり少年漫画的な熱い展開ですね。かつての敵が仲間になる、といった定番の流れもあり、個人的に不良キャラ好きなので元いじめっ子の雫芽さりななどは応援したくなります。
 そしてビルドゥングスロマンとしての要素。非常に個性的なキャラたちが大勢登場する中、主人公の朝霧彩はいじめられっ子だけあってウジウジしていてはっきりせず、今ひとつキャラが立っていません。能力も「転送」と地味です。しかし最新話55話では遂にこの朝霧彩がブチ切れ覚醒のような展開があり、溜めて溜めてどーんという快楽がたまりません。
 彼女の成長は一番最初に会った自分以外の魔法少女でクールな姉貴肌である奴村露乃との関係に依るところが大きく、二人の間は友情を越え恋愛関係的なものにもなっているのですが、この奴村露乃は能力の使いすぎて寿命が迫っているのですね。奴村露乃を救うこと、「一人で立ち向かえるようになって欲しい」という奴村露乃の願いを叶えること、それが朝霧彩の成長の起爆剤となっています。これも丸っきり「アニキもの」ですね。
 わたしは「アニキもの」な構造が大好物で、ジョジョ第五部のプロシュートとペッシの関係なども大変熱くなってしまいます。あの二人については、プロシュートの兄貴のキャラクターがよく知られていますが、個人的には兄貴がやられてからのペッシの覚醒が何と言ってもたまりません。いいですねぇ。アニキに甘えてばかりだったダメな奴が、アニキがやられて覚醒、という胸熱展開。泣けますよ。
 まぁこのように、魔法少女とは名ばかり、謎解きと古典的な友情と成長の物語なのですが、そこが良い!という作品です。

 さて、魔法少女サイトの謎ですが、中学生並に恥ずかしい考察をしてみます。
 使えば使うほど寿命が減る、サイト管理人たちは何らかの理由でステッキを使わせたがっている、ステッキの回収という段階がある、ということから考えて、本体はステッキ、という可能性がまず考えられるでしょう。つまりステッキは寄生生命体的なもので、少女に使ってもらうことによって何かエネルギー的なものを取り込み、最終的に管理人の手に戻っていく、と。
 そして管理人たちもまた、元魔法少女であることがわかってきたのですが(「今際の国のアリス」などと一緒の割と定番ながら手堅い構造)、あれはステッキが「充填完了」となり、少女の方がステッキに飲み込まれた状態なのではないでしょうか。勿論すべての少女が管理人状態となる訳ではなく、淘汰圧をくぐり抜けた選りすぐりの少女が管理人となる、ということかと思います。
 あくまで主体はステッキ、そのステッキがどこから来たのかは明瞭には説明されない、という予想をしています。

 それからとても気になる点として、魔法少女たちの使っているステッキは単なる武器や道具のようなもので、与えられた当人でなくても普通に使用できてしまう、というところですね。ステッキの複数使用は寿命を大きく削る、という縛りはあるのですが、受け取った持ち主本人でなくても、更に言えば少女でなくても問題なく使えてしまっているように見えます。
 不幸な少女が使わないとステッキ側にとって不利なことがある、何かエネルギー的なものがうまく取り込めない、などがあるのかもしれないし、(魔法)少女以外が使い続けることで思わぬ副作用がある、という展開があるのかもしれません。今のところ何もわかりませんが、彼女たちが当たり前のように自分の与えられたステッキにこだわっているのが少し不思議ではあります。「かえっこしようか」という子がいてもおかしくない気もするのですが(笑)。

 以上、イイ歳して恥ずかしいマンガの感想と考察でした。

よしこ画伯

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