先日、近所を歩いていると、道路の向こうに犬が繋がれていました。
わたしは繋がれてお留守番をしている犬を見ていると必ず寄って行って遊んでしまう習性があるので、わざわざ道を渡って遊びに行きました。
コーギーのようですが、コーギーにしては大きいし、足も短くないです。
自転車のハンドルに繋がれた状態で、銀行の前でお留守番していました。
グーで手を近づけるとスンスン嗅ぎますが、すぐに「よし、わかった」という風にペタンと道路に顎をつけて大人しくしています。
これは大丈夫な犬だ、と思い、首の後ろや背中をナデナデしましたが、嫌がることもなくじっとしています。
若い犬ではないけれど毛並みも綺麗だし、一人でお留守番もできるし、とても良い犬です。
しばらくナデナデしていましたが、飼い主は帰ってきません。
そばに宝くじ売り場の呼び込みの女性がいたのですが、わたしがあんまりしつこくナデナデしているせいか、話しかけてきてくれました。
「もう30分くらい経っているのに、帰ってこないんですよ。お利口ねー」
銀行の前なので銀行に用があったのでしょうが、30分も出てこないというのは不思議です。
見ると、自転車はかなり年季の入ったママチャリで、いかにもお年寄りが使っていそうです。
カゴには犬のお散歩グッズと一緒に煙草が入っていたので、おじいちゃんかもしれません。
そして犬のリードがハンドルに繋がれているのですが、よく見てみると、リードの先の持ち手がハンドルにかけてあるだけです。
つまり、この犬はその気になればいつでも自分でどこかに行けるのです。
それなのに、30分以上もじっと大人しくご主人の帰りを待っていて、見知らぬわたしがやって来ても相手をしてくれる。
たまたまその時ドーナツを持っていたので、あげたいところでしたが、勝手にエサをやってはいけませんから、我慢しました。
犬の方も「え、それドーナツ?」という感じでちょっとスンスンするのですが、少しさみしそうに「でもやっぱり勝手に食べたら怒られるしなぁ」という顔をしています。
なんて賢い犬でしょう。
わたしは10分以上その犬と遊んでいたのですが、結局飼い主は帰ってきませんでした。
宝くじ売り場の人とはすっかりおしゃべりして、最後に「ワンちゃんよろしくお願いします」とよく訳の分からないことを言ってその場を去りました。
それから、考えました。
もしあの飼い主の人がお年寄りで、ただ銀行に寄っていたのではなく、何かがあって帰ってこられないのだとしたら。
突然倒れて救急車で運ばれて、犬が置き去りにされてしまったのだとしたら。
考えるだけで、胸が張り裂けそうです。
入院することになった一人暮らしのおじいちゃん。息子夫婦とも疎遠で、見舞いには来てくれるものの、犬のことまで気が回りません。
置き去りにされる犬。
警察に連れて行かれ、狭いカビ臭い部屋で檻に入れられてしょんぼりとする犬。
やがて日が経ち、仕方なく処分されることになってしまうかもしれません。
思い出してもらえたとしても、その後大好きなおじいちゃんは家におらず、散歩にも連れて行ってもらえません。
台所ではものの腐る匂いがして、ただそれを床に顎を付けて寂しそうに眺める犬。
綺麗だった毛並みも段々とボサボサになり、目からも生気が失われていきます。
そんなこと、到底耐えられません。
万が一そんなことになったら、おじいちゃんが元気になるまで、わたしが犬を預かろう。
毎日おじいちゃんの家までいって、エサをあげて、散歩に連れて行ってもいい。
それがダメなら、うちは犬を飼えない家だけど、こっそりかくまって、その間に犬の飼える部屋を探してに引っ越そう。
前から犬が欲しくて、犬の飼えるところに引っ越す計画もあったのだし。
もしもおじいちゃんがもう飼えない状態だというなら、責任をもって最後まで面倒を見る。
この犬も見たところ結構お年寄りなので、最後はおじいちゃんのところまで連れて行ってあげよう。
絶対に一人にはさせない。
と、そんなことが頭にポワンポワーンと浮かんで止まらなくなり、家に帰って一時間ほどしてから、もう一度あの場所まで見に行ってみました。
犬はいませんでした。
飼い主の人が無事に帰ってきてくれたようです。
少しさみしい気もしましたが、本当に良かったです。
もし町で、今度は飼い主の人がいる時に出会ったら、声をかけてお話させてもらおう、と思いました。
あんな犬を育てるのだから、きっと素晴らしい人に違いありません。
宝くじ売り場では、さっきの女性が変わらず道行く人に声をかけています。
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