映画『マイ・インターン』と安全なフェミニズム

 ロバート・デ・ニーロ主演の映画『マイ・インターン(THE INTERN)』を見てきた。
 デ・ニーロ演じる七十代の男やもめが、社会とのつながりを求めてウェブショップで急成長しているベンチャーアパレル会社にインターンとして入社。凄腕女社長の下に配属され、最初は疎ましがられるものの、徐々に才覚を発揮し・・みたいなお話だ。

 以下、ネタバレを含むので注意。
 
 普通に楽しく見られたのだけれど、なんというか、見事に女子受けな映画という感じで、久々にこんなにふわふわした作品を見た。
 美人の女社長はウェブ展開で急成長している会社を引っ張るバリバリのビジネスウーマンで、会社は古い倉庫を改装したオシャレなオフィス。昼夜を問わず働き詰めだけれど、小さく暖かい家庭があり、仕事をやめて主夫になってくれた優しい旦那さんと、可愛い幼稚園児の女の子がいる。お母さんはちょっと口やかましいけれど、それなりにうまくやっている。そして夫の両親は一切登場しない。
 表面的には問題のない夫婦関係を改善するため、CEOを雇うとか雇わないとかいう話になっている。女社長はこれまでワンマンで頑張ってきたから、仕事か家庭かで悩んでもいる。
 そんな時に現れたダンディーなおじいちゃん。テクノロジーには疎いけれど、人生経験豊富でオシャレで気が利く。会社の若い男の子たちと違って、包容力もあり頼りになる。そして重要なことに、性的な攻撃性がない。そこがおじいちゃんであることの大きなアドバンテージだ。
 正確には、おじいちゃんもまだまだ性的に「元気」である描写があるのだけれど、そうした能力を持っていながら、なおかつ女社長にとっては「無害」というところがポイントだ。
 女社長は自分で「プライベートをあまり見せない」と語っていて、外壁は高いように見せかけているのだけれど、一度心を開くと弱い面をおじいちゃんに見せるようになる。実は夫の浮気疑惑で悩んでいて、おじいちゃんにその苦しみを受け止めてもらう。
 最後は仕事から逃げないことを選択、夫も浮気相手と分かれて涙ながらに謝罪、それを見て「よし、許す!」メデタシメデタシ、という展開だ。

 青年誌系の女性向けマンガみたいな構造で、女子ファンタジーにとって都合の良い要素がこれでもかとつめ込まれている。
 おじいちゃんの気にききぶり、オシャレぶりは言うに及ばず、会社の「男の子たち」の関係も、いかにも「女子の考えた男の友情」だ。今時中学生だってこんなキャッキャウフフな可愛い友情はないような気がする(あるのかな)。その「男の子たち」とおじいちゃんがともに奮闘するこの映画唯一のアクション性のある場面、「誤送信メール消去作戦」も、実に可愛らしい危なげないもので、なおかつ女社長自身はそこに登場しない。
 少し話がズレるけれど、通俗的な文脈で「男性の鈍さ」みたいのが言われることがよくあり、実際、細かい感情の機微とかヴィジュアルのディテールなどに鈍い男性は結構多い(すべてではない)。一方で、女性特有の鈍さというのもあって、縦社会的な権力関係、目に見えないメンツの保ち合い、「本当はアイツが悪いけれど、これ以上やったら向こうも引っ込みがつかなくなって余計揉めるし、ここが引き際」的な力関係の駆け引きといったものに、まるで勘付かない(そして平気で踏みにじって問題をこじらせる)女性というのもいる(すべてではない)。表面的にうまくやっているようで裏では細かい心理戦が繰り広げられている、というのは男女を問わずよくあることだけれど、異性における独特のコードについては、育ち方次第で鈍い人が沢山いる、ということだ。それはそれで仕方がないことなのだけれど、この映画の「男の子たち」には、女子受けしやすい極めて表層の「よそ行き」関係しか登場しない。男性向けマンガのものすごい嘘くさいヒロインのようだ。
 一緒に見に行った身近な人が「フェミニズム的にポリティカル・コレクトな映画」と言っていたけれど、正にその通り。フェミニズムがハリウッドに飲み込まれている。
 『マッドマックス』のフェミ性もそうだけれど、なんというか、ここにあるのは飼いならされたお上品なフェミニズムなのだ。
 別にそれが悪いとか言うつもりはないし、もう随分昔から、フェミニズム自体がフェミ同士ケンカができる程度に巨大なマーケットになっているのだから、こういうものもあって良いのだろう。ただ、飼いならされたフェミニズムは、もうフェミニズム以外とはケンカができない。文字通り去勢されたというわけだ。
 もちろん、現実世界ではまだまだケンカのしどころは沢山あるし、映画というのはそういううざったい現実から逃れる場所でもあるわけだから、これはこれで良いのだと思う。
 実際、安心して見られることは間違いないし、お客さんも沢山入っていた。わたし自身もちゃんと楽しんだ。
 最後に一発、女社長があの優しそうな旦那さんを引っ叩いて、それから「よし、許す!」だったら、もうちょっと余計なことを考えないで済んだのだけれど。
 ちなみに、細かいギャグなどはよく出来ていて面白かった。「玄関の鍵は植木鉢の下!」と聞いて行ってみたら植木鉢だらけ、みたいな可愛いギャグは素直に楽しめた。いや実際、ああいう植木鉢だらけの年寄りの家って多いよね。

Intern
Various Artists
Water Tower Mod Afw 2015-09-18

よしこ画伯

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