進撃の巨人16巻感想、展開予想

 『進撃の巨人』16巻、出ましたね。
 おおよその流れは知っていたのですが、連載で読んでいた回と読んでいない回がありますし、やはり単行本で読むのが一番ですね。
 しばらくクーデター編で地味なお話が続いていましたが、今回の16巻収録分から話が動いた感じです。
 特に66話のヒストリアのブチ切れシーンは、久々にカタルシスがあって素晴らしい回でした。
 16巻収録分で、いくつか謎が解明されたところがありますが、まだまだわからないところは残っていて、今後が楽しみです。

 今回、ヒストリアは巨人化し初代王の力を継承することを拒みましたが、これは物語構造的に重要なポイントだと思います。
 まだまだ分かっていないこともありますが、もともとレイス家で継承されたいた力には、少なくとも、

①記憶を操る能力
②巨人を操る能力(座標?)

 があった筈です。
 しかし①と②を併せ持つ正統継承者は、初代王の思想に支配され、自由になることができません。世界の歴史を知るこの立場からすると、今の状態が望ましいのであり、「人類は巨人に支配されていて良い」だけの正当な理由があるようですが、それはまだ分かっていません(おそらく巨人を作り出した、人々を巨人化した張本人が壁内人類の祖先ということなのでしょうが)。
 ここで面白いのは、①と②が併せ持たれていれば、ある意味で静的な平衡状態が成り立っていて、ホメオスタシス的に完結しているのですが、一方で流動性や変化の契機が奪われている、ということです。
 プラトンの『饗宴』の中に、有名な男女の起源に関する神話があります。それはかつて、男女は一つの「完全体」だったのだけれど、神の怒りに触れて二つに引き裂かれてしまい、それゆえにお互いを求め合う、というものです。
 おそらくこうした形の神話というのは他でも見られるでしょうし、実際、有性生殖というのは、単体で子孫を残せないという意味では面倒なものですが、一方で多様な組み合わせの子孫を作り出すことが出来る、というメリットがあります。コーランの中にも「色々な人々が作られたのは、お互いに出会うため」という下りがあります。
 つまり、二つに分かれた「不完全体」の状態というのは、不完全な分、流動性があり、それは「出会い」を求めている、ということです。
 今回、ヒストリアは初代王の思想に組み敷かれることを拒否し、巨人化しなかった訳ですが、これにより①と②が分離している状態、言わば男女が一つの完全体から二つの不完全体としてお互いに「出会い」を求める形へと舵を切った訳です。
 ここには、おそらく『進撃の巨人』のメッセージが込められていて、安定的で平衡の成り立った秩序の中に閉じこもるのではなく、多少の不安定・不完全さを背負うことで自由と流動性を手にせよ、ということかと思います。実際、有性生殖の生き物というのは、そういう道を歩んできたとも言えます(と言ったらちょっと敷衍しすぎかもしれませんが)。
 ともあれ、今回で明白に①と②が再統合されることが拒否された訳で、しかも『進撃の巨人』の物語上は、ヒストリアは巨人化しなければどっちの能力も発揮できず、エレンはエレンで叫びの不完全な力が使える以外は単に知性巨人というだけでしかありません。
 このままでは決着がつかないので、おそらく、物語上のどこかで、①と②のそれぞれの秘密が解き明かされ、もう少しコントロールは出来るようになるのでは、と思うのですが、「不完全さと引き換えの自由」という意味では、初代王の思想のくびきから解き放たれるということは、どちらについてももう完全には回復しないのでしょう。

 巨人は多分、兵器として作り出されたもので、おそらくナウシカ的な世界観というか、人類が歴史のある時点で遺伝子の組み換えなどによりいくつかのタイプに編成され、そのうちの単一民族であり人類兵器化の戦犯である人々が壁内人類なのでしょう。
 だからこそ、初代王はお互いに住み分け、壁内人類は「幽閉」という形で罪を負うべきだ、と考えたのではないかと思います。
 しかし今の壁内人類は、その祖先の人々と同じではありませんし、彼ら自身は何の罪もない人々です。
 ただ徒に祖先の罪を負うだけでなく、それを乗り越え、新たな道、おそらくは人類と共に巨人を解放する道を探さなければならない、という方向に、物語は進んでいくのではないでしょうか。

進撃の巨人(16) (講談社コミックス)
諫山 創
講談社 2015-04-09


よしこ画伯

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