ライナー・ベルトルトら「戦士」の目的、「座標」の意味 『進撃の巨人』

 『進撃の巨人』、年甲斐もなく気になっています。
 以前に最初の方の巻だけレンタルコミックで読んだ時は、中二臭いだけで魅力を感じなかったのですが、最近になって先まで読んでみたら、最近巻が非常に面白くて、全巻買ってしまいました。「敵は壁の内側にあり」となって人間対人間の流れになってきてから、とても魅力的になったように感じます。
 現時点(12巻まで)でも相当色々な謎があるわけですが、中高生に戻ったかのように謎解きに頭を巡らせてしまいます。
 一つ、自分なりに考えた予想を恥ずかしげもなく披露してみます(アニメ派の方にはネタバレを含みますので注意)。

 ライベル(ライナー、ベルトルト)が壁を破壊し、壁の中の人類を滅ぼそうとしたのはなぜか、ということについて。
 彼らは「壁内人類を滅ぼす」と言っていますが、正確には、真の目的は「知性巨人をあぶり出す」ことにあるのではないか、と考えています。
 壁を破壊して無知性巨人に壁内人類を食べさせれば、知性巨人(になれる人間)を食べた時点で、その巨人は知性巨人化するわけで、知性巨人をあぶり出すことができます。知性巨人を食べることで無知性巨人が知性化する(人間に戻れるようになる)ことは、はっきりとは語られていませんが、ほぼ確定事項でしょう。無知性も知性も共にもともとは人間であり、うなじ部分には脊髄が埋まっており、違いは「無知性巨人では一体化が進んでいてほぼ溶け込んでいるのに対し、知性巨人では人間の形が残っている」ということでしょう。
 ウォール・ローゼ侵攻に際して、エレンの巨人化をうけて壁突破を中断したことも、「知性巨人のあぶりだし」が目的だとすれば納得できます。
 ではなぜ知性巨人をあぶりだしたいのでしょうか。
 それは、巨人にされた人々を人間に戻すため、かと考えられます。
 「戦士」のいう「故郷」とは、おそらく既に物理的には存在しない、もしくは極小数の人間・知性巨人の集団であり、そのほとんどは巨人化されているのではないでしょうか。つまり「戦士」はもともとの彼らの仲間である巨人を人間に戻そうとしているのです。
 壁内人類にとって巨人は「敵」ですが、巨人を「哀れな元人間」として認識しているものにとっては、自分の家族や友人を人間に戻してやることが正義になるのは、道理に合うでしょう。母親を巨人にされたコニーだって、もし方法があるなら人間に戻したいと思う筈です。
 知性巨人があれば、それを食べさせることで巨人を人間に戻すことができます。
 とはいえ、それでは一人につき知性巨人一体が必要な訳で、非常に効率が悪いです。そこで出てくるのが「座標」概念ではないでしょうか。
 「座標」の正体もはっきりしませんが、現時点では「巨人に命令できる能力」のようなものらしいです。これはアニが叫びで巨人を集めたような、単に自分を食わせるようなものではなく、12巻末尾でエレンが発揮したような、多くの巨人に捕食対象を指定するような働きをするものでしょう。アニの能力は別物で、こちらはおそらく「硬質化」などと一緒で、練度や適性により巨人が普通に獲得できる能力なのではないか、と考えています。
 おそらく「座標」の能力、もしくはその能力者自体により、多くの巨人を人間に戻すことができるのではないでしょうか。念じるだけでは単に巨人に命令できるだけかもしれませんが、たとえば「座標」能力をもった知性巨人(人間)の血清を注射することで巨人を人間に戻せる、といったような効用があるように思います。とにかく「座標」には「多くの巨人を人間または知性巨人にすることができる」要素があるのでは、と予想しています。
 こうした目的を持つ「戦士」らにとって、自分たちだけは巨人化の恐怖から逃れ、ただ巨人を敵視するだけの壁内人類が「敵」に映ったとしてもおかしくありません。ライナー、ベルトルトも当初はそうした意識で潜入していたのでしょうが、一緒に生活するうちに「壁内人類もまた普通の人間でしかない」という当たり前の事実に直面し、ライナーなどは精神に混乱をきたしたのでしょう。

 さてでは、そもそも巨人化させているのは誰なのか、という疑問が残ります。
 現時点で明白に人間を巨人にさせているのは「猿」です。「猿」は立体機動の存在を知らないなど、中身が人間であるにせよ、壁内人類とは全く異なる文化の出自であることが伺えます。とりあえず、
①巨人を「敵」と認識する壁内人類
②巨人を「哀れな元人間」と認識する「戦士」たち
③巨人を増やしたい「猿」
 の三種類の勢力がある、ということになります。
 「猿」が巨人を増やしたい目的とは何でしょうか。
 これが今ひとつ分かりませんが、「猿」自身は巨人に命令することができ、巨人の脅威にもさらされていないようなので、自分が「猿」の立場に立ってみれば、世の中に巨人が増えるのは都合の悪い話ではないように思います。とはいえ、さすがにそれだけで人間を片っ端から巨人するとも思えないので、何か理由があるのでしょう。巨人を食料にする、あるいは兵器として使う、ということ等が考えれますが、果たして兵器にして何と戦うのか、というと、そんな敵もいないように思います。
 人間を巨人化する方法ですが、
①叫びとか念のようなもので一斉に巨人化
②水源などに何らかの薬物などを入れて巨人化
③注射などで巨人化
 などの方法が考えられますが、①はチートすぎるのでできれば避けて欲しいです。
 ③も、ラガコ村のケースを考えると、訳の分からない人間がやってきて注射をさせてくれ、といって、すんなりいくようには思えません。すると②が有力なようなのですが、ここで一つ思い出すことがあります。
 伝染病の流行った時に、グリシャがどこからか血清?を手に入れてきて、人々を救った、というエピソードです。
 例えば、「猿」または「猿」一派の誰かが、流行病などに乗じて医者として潜入すれば、③の方法も不可能ではないように見えます。
 すると、非常にイヤな予想が浮かぶのですが、グリシャの注射というのも、もしかすると巨人化の要素をはらんでいたのではないでしょうか。これは非常に遅効性の薬か何かで、巨人になるには長い年月が必要です。グリシャのエピソードは、エレンが生まれる前の話らしいので、十五年以上かかることになります(もしこれが本当なら、ラガコ村でも非常に昔に接種が行われたか、あるいはもっと効き目の早い薬が最近使われたのでしょうが、コニーが巨人化していないことから、多分後者でしょう)。
 もしグリシャが伝染病に乗じて巨人化の薬を打ちまくっていたとしたら、そろそろ壁内人類の中に巨人化する者が続々と現れる筈です。「もうすぐ壁内が地獄になる」といったことをユミルも言っていますし、この可能性は捨てきれないのでは、と思います。だとしたら、グリシャはとんでもない極悪人ということになりますが、これも「猿」と一緒で、巨人化するのにも何らかの目的・正当性があるのではないでしょうか。
 そうなったとしても、「座標」の力があれば巨人を人間に戻すことができるわけで、ユミルが「それなら壁内にも希望がある」「ライナーらがエレンにこだわるのも納得」といったことを言っているのは合点がいきます。
 そしてライナーが、エレンは「座標を持つのに最悪の人物」と言っているのは、エレンが巨人をひたすら憎悪しているからでしょう。ライナーらにしてみれば、巨人は「哀れな人間」なのに、せっかくの「座標」を持った人間がエレンでは、巨人はちっとも救われない、ということではないでしょうか。

 ウォール・マリア侵攻からローゼ侵攻までに五年もの歳月を要した理由も謎ですが、「知性巨人のあぶりだし」が真の目的だとするなら、ある程度は説明できるかと思います。つまり、マリアを壊して巨人を中に入れてみたけれど、期待したいような知性巨人がみつからず、仕方がないのでローゼまで壊した、ということです。あるいは、ライナーらが壁内に潜伏して捜査することで、壁を壊さずとも知性巨人が見つけられるかもしれない、という希望があったのかもしれません。

 「壁」建造の目的ですが、これはかつて巨人化が一斉に進行した際、全人類の巨人化を防ぐべく、文字通り「人柱」になった知性巨人たちが大勢いた、ということではないでしょうか。いや、さすがにそれだけの数が自主的に「人柱」になったと考えるのは難しいので、「座標」能力等により、多くの巨人を壁にして、全人類巨人化を防いだ者がいる、ということかと思います。
 では最初の「巨人化」は何がきっかけだったのか。これも謎ですが、伝染病のようなもので、何らかの適性により一部の人間は知性巨人にとどまることができた、ということかもしれません。
 もう少し可能性として高そうなのは、人為的なもので、当初は軍用で始まったものが、制御しきれずに巨人化が一気に進行、というケースがあり得ます。
 もう一つ考えているのは、実は巨人化そのものが人類の救済手段だった、というものです。ナウシカではないですが、何らかの天変地異や伝染病の流行などがあり、これらから身を守るために一時的にでも巨人になることが有効だった、というものです。だとしたら、グリシャが巨人化薬を打ちまくったことの説明にもなるのですが、その伝染病とやらは何なのか、なぜ巨人になると大丈夫なのか、はよく分かりません。ただ、巨人になることが何かの適応手段で、実は巨人になることで身を守っている、という説明はあり得そうな気がします。

 以上、我ながら痛い予想ですが、気になって仕方がないので披露してみます。

進撃の巨人(13) (講談社コミックス)
諫山 創
講談社 2014-04-09


よしこ画伯

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