普段このブログに書いているのとは全然関係ない内容です。
川上和人氏の『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』。話題になっているのを目にして気になっていたのですが、とうとう買ってしまいました。
鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー) 川上 和人 技術評論社 2013-03-16 |
最近、鳥にハマっているのですが、恐竜については興味を持ったことがありません。世の中には恐竜を語りだすと止まらない、という人たちがいて、一大市場を成しているのですが、個人的には、正直、デカいトカゲくらいにしか思っていませんでした。
鳥の本ならいくらでも読みたいけれど、トカゲじゃなぁ・・と思ったのですが、読み始めたら最高に面白いです。
現在では鳥が恐竜の子孫であるという認識が一般的になっていますが、化石しか手がかりのない恐竜について、鳥類学者である筆者が想像力の限りを尽くして考える、というものです。
しかしこの本のヒットの秘密は、恐竜とか鳥とかいった対象自体ではなく、筆者の軽妙な語り口でしょう。一時期、アニメや特撮などのサブカルの世界を科学者が真剣に考えてみる、という系統の本が流行りましたが、ノリ的にはこれに近いものがあります。ただ、恐竜は立派な学問的対象ですから、内容はしっかりしていて実のあるものです。
もう一つの魅力は、イラストです。これもネット上で多くの人々が言及していましたが、とにかくイラストが可愛い! こんな可愛いならデカいトカゲでもいい!というくらい可愛らしいです。
恐竜一色の本かと思っていたら、思いのほか鳥の占める部分が多く、鳥好きとしては嬉しい限りです。鳥に対する認識も深まり、そのご先祖様かと思うと、デカいトカゲも前より愛らしく思えてきました。
個人的には、鳥がいかに巧妙な生存戦略をもって生き延びてきたか、というところに一番面白みを感じました。この著者の本をもっと読んでみたい、と思ったのですが、検索してみると一般書では図鑑系のものばかりのようです。エッセイ、雑学本のようなものを書いたら売れると思うので、是非沢山出して頂きたいです。
ちなみに、鳥の本全般についても、検索して探そうとすると図鑑系のものばかり山ほど見つかり、雑学系のものはなかなか良いものが発見できません。
ついでなので、最近読んだ鳥本で、個人的に気に入ったものを紹介しておきます。
散歩で楽しむ野鳥の本 (街中篇) 大橋 弘一 Naturally 山と溪谷社 2008-10-21 |
庭で楽しむ野鳥の本―原寸大 大橋 弘一 Naturally 山と溪谷社 2007-11-01 |
『散歩で楽しむ野鳥の本』と『庭で楽しむ野鳥の本』。超初心者向けの鳥図鑑としておすすめです。
鳥図鑑やバードウォッチング入門のような本は山ほどあるのですが、「鳥なんてカラス・ハト・スズメしか分からん」くらいのド素人は、変に網羅的な図鑑を見てもさっぱり頭に入って来ません。紹介されている鳥の種類は少ない方が良いです。とりあえずはヒヨドリ、ツグミ、ムクドリやカモの仲間など、身近なところで目にする鳥から親しんでいく方が良いと思います。
この二冊の本は、紹介する鳥の種類を最小限に抑え、代わりに大判の写真で印象的な構成となっています。大判書籍なので持ち歩くには使えませんが、ページ数も少なく、気軽に寝転がって眺められます。
それぞれの種類の説明についても、あまり込み入ったことは書いていません。そこが良いです。初心者向けの解説では、変にスペック的なところを細かく書かれても印象に残りません。それより、エピソード的な内容を一つ二つ入れてくれる方が、その鳥に親しみが湧いて覚えやすいです。
『散歩で楽しむ野鳥の本』ではカモなど水鳥に紙数が割かれていますが、『庭で楽しむ野鳥の本』はタイトル通り庭に呼べるような小鳥が中心です。重複する種類もありますが、両方買って全然問題ありません。
身近な鳥のふしぎ 庭にくる鳥から街中、水辺、野山の鳥まで、魅惑的なさえずりと生態を楽しもう (サイエンス・アイ新書) 細川 博昭 ソフトバンククリエイティブ 2010-05-19 |
『散歩で楽しむ野鳥の本』と『庭で楽しむ野鳥の本』から半歩進んで、もうちょっと多くの鳥が知りたい、という時用です。タイトルは鳥の雑学本のようですが、実際は見開き2ページで一種類という形式の新書サイズ図鑑本です。
この本の売りは鳥の鳴き声をカタカナで表現しているところらしいですが、その辺は参考程度にしかなりません。
個人的にこの本が気に入ったのは、イラストがとても可愛いこと、もう一つは江戸時代の伝統的な鳥飼育に関する記述が見られることです。この本を読んで、日本の歴史的な鳥文化についてもっと知りたくなりました。
カラスの早起き、スズメの寝坊―文化鳥類学のおもしろさ (新潮選書) 柴田 敏隆 新潮社 2002-07 |
鳥の雑学本で、学問的というよりバードウォッチング的な視点で非常に含蓄の富んだうんちくが語られています。著者の経験から来るエピソードや、鳥の文化的位置づけなどが非常に読ませます。
そこは良いのですが、各エピソードの最後に異様にオッサン臭く説教臭い一言が入ってくるのだけが非常に邪魔です。鳥のオスメスの話をしてから「近頃の男女は・・」みたいな話が出てくるので、この余計な一言がなければ三倍くらい面白い本になっていたと思います。
小鳥はなぜ歌うのか (岩波新書) 小西 正一 岩波書店 1994-05-20 |
鳥のさえずりについての研究者による一般書籍。
これも非常に面白かったです。フィールドワーク的な部分から脳についてまで、かなり網羅的に書かれています。
多様なさえずりが何を目的とするのか、諸説あるようですが、「多くの鳥がいるように見せかけること」という説があり、これが興味深いです。鳥はちょっと目を離したスキに縄張りを奪われてしまうことがあるそうですが、この性質を利用し、鳥をつかまえてその縄張りにスピーカを置いてさえずりを流す、という実験が紹介されています。さえずり音声が流れていると、ただ放置しているより縄張りを奪われるのに時間がかかり、更にさえずりが多様だともっと時間を稼げるようです。
この実験については、逆に、最終的にはやっぱり縄張りを取られてしまう、というところが気になります。どの辺で「なんや、やっぱり鳥いないんやんけ」と気づくのでしょうか。
さえずりについては『さえずり言語起源論』
鳥脳力―小さな頭に秘められた驚異の能力(DOJIN選書32) 渡辺 茂 化学同人 2010-04-10 |
タイトル通り、鳥の脳に関する本です。
鳥がどのように世界を認識しているのか、色々な実験を通じてアプローチしていきます。それは面白いのですが、実験の過程で鳥の視神経が切断されたり脳が損傷されたりするので、市井の鳥好きとしては胸が傷んで辛いです。
学問的にはとても興味深いのでしょうが、個人的には、鳥の秘密が分からなくてもいいから神経切ったりしないで欲しいです・・。
書籍ではなくiPadアプリです。
タイトル通り、野鳥の映像集ですが、とても美しい映像で見ていて飽きません。鳥の種類を覚えるのにもぴったりです。できれば図鑑的に鳥の解説も一緒につけたらもっと良かったと思います。
一巻1000円で四巻まで出ているので、ちょっとお値段するのですが、値打ちはあります。鳥の動画なんてYouTubeでいくらでも見られるのですが、やはりキチンと監修されたものは見やすさが違います。
鳥の美しさもさることながら、この動画のカメラマンは本当に凄いです(鈴木良二さんという方です)。わたしなどは、身近な野鳥の写真一枚撮るのにも手こずっているのに、これほどのグレードを動画で捉えるというのは並大抵の努力で出来るものではありません。超望遠の状態で鳥の動きをパンで追っている映像などがあるのですが、撮影技術に加えて鳥の動きを完全に見切っていないと到底こうしたカメラワークはできません。世の中には物凄い人がいるものです。