三倉佳境の「関節王」。
 「グランドチャンピオン」に連載されていたドシブな格闘漫画で、掲載しの廃刊により五巻で終わってしまったマニアックな漫画です。
 全巻セットを買おうかと思ったのですが、初めて電子書籍で購入してしまいました。

工事現場で働き、鳶職仲間から「オヤッサン」と親しまれる38歳の男、水澤完。その傍らにいつも寄り添う娘の映美。実は水澤は古流柔術「守天流」の継承者であり、奥義を極めた柔術家であった。水澤はある志を秘め、他流である全日本柔道選手権に出場する。

 この「関節王」、色々と渋いポイントがあるのですが、まず主人公が38歳とび職。ここからして、少年格闘漫画ではあり得ない設定です。でもそこがイイ。おっさんがカッコイイのが渋くて素晴らしい。
 キャラ全般に、今時の格闘漫画にありがちな腐女子受けする要素はゼロ。細くて美形の男が実は強い、というのは全然なく、強いヤツが強そうな顔身体をしています。異様にむさくるしい漫画です。絵柄も実に昭和っぽいです。
 主人公は柔術の継承者なのですが、こういうキャラが闇の世界で活躍する、というのだったらありがちな格闘漫画なのですが、柔道の全日本選手権に出場します。そして普通に柔道と戦って勝ってしまう、という、これまた地味で渋い展開が面白いです。更にその後はグローブ空手のトーナメントに出場します。
 サブミッションアーツレスリングの麻生秀孝が協力しているようで、技の描写などが異様にリアルです。特に組み技系の技術を細かく描くのは難しいし、また一般受けもしにくいと思うのですが、そこを実に緻密に表現してくれています。

 と、ここまでは非常に良いポイントで、組み技系リアル格闘漫画としては絶品なのですが、難点もあります。
 まず、せっかくリアル系の設定なのに、オーラがどうだの気の戦いだの、神秘がかった変な設定が出てきて、ラストの展開も1400年の恩讐みたいな非現実的戦いになることです。最初から神秘系というか、SFっぽい格闘漫画ならそれでもいいですし、バキだったら何が起こっても驚きませんが(笑)、リアル系・地味系が魅力の漫画では、こうした要素は抑えめにした方が良かったと思います(漫画ですから、ストーリーの盛り上がり的に多少あるのはプラスでしょう)。
 また、これは連載の都合上仕方なかったのかもしれませんが、柔道の全日本に出る、という、他で聞いたことがないような地味展開なのに、トーナメントがあっという間に終わってしまうことです。この漫画、ヘンに神秘要素やら何やら入れずに、柔道のトーナメントだけで二十巻くらい続けて良かったでしょう。全日本出場をかけた闇試合みたのも、非現実的すぎて今ひとつです。
 もちろん漫画だから非現実に決まっているのですが、リアルっぽさと漫画っぽさのバランスというのが重要でしょう。この漫画の魅力はリアルで地味な関節技描写などなのですから、物語が展開できるギリギリまで地味に抑えた方が成功したはずです。
 また展開がやたら早いために、各キャラの描かれ方が不十分で、あまり引きこまれません。なんだかよくわからないけれどデカイヤツを倒すだけでは、主人公の強さも際立ちません。
 そして、主人公の動機が最後の戦いまで明かされないこと。これはこれで良いのですが、主人公の内面が見えないため、物語としては三人称視点的になっています。そういう構造にするなら、なおさら周囲のキャラを内面から深く描かないと、ストーリー展開的には牽引力に欠けるでしょう。
 あとは女性の描き方が物凄い神秘化されていてキモい、というのがありますが、これは男性向け漫画全般に言えることなので、目をつむります。

 物凄い可能性のあった漫画だと思うし、またやってほしいとも思うので、作者には再起を願いたいです。

よしこ画伯

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よしこ画伯

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